ハッテミルカ学習法

[要旨]

 ハッテミルカ学習法は、ルキオラエステート社代表梶山が2017年に考案した資格試験受験者のための学習法である。その最大の特徴は、過去問を法条文理解の“味方”として捉え、複数の過去問を解くプロセスを通して法条文の本質を捉える姿勢である。
 現実の資格試験では、理解度を評価するため同じ法条文に対して異なった表現で作問されている。つまり、過去問は法条文を多面的に捉える視点を示していると言える。よって過去問を解くことは、法条文を“軟化”、言い換えれば、多様な視点から法条文を深く理解する機会になる。
 今回、ハッテミルカ学習法を知財検定試験に適用した。3級および2級の勉強を並行して進めながら、より深い理解とともにより短期間で知財管理レベルの向上を目指す電子書籍として出版している。
 また書籍「ハッテミルカ知財技能士」では、IT技術を駆使した電子書籍で構成し、出題傾向の見える化、自己の知識レベルの見える化、進捗の見える化など学習を計画的におこなうための工夫、法条文と関連する公的資料とのリンク情報など実際の業務に応用できる工夫が盛り込まれている。

[本文]

1 資格試験学習

1.1 目指す能力レベル(2級合格者)

知財2級の合格者に期待される能力は、知的財産管理技能検定試験要項から引用すると、「知的財産に関する戦略、法務、リスクマネジメント、調査、ブランド保護、技術保護、コンテンツ保護、デザイン保護、契約、エンフォースメント(権利行使)に関する幅広い基礎的知識を有し、業務上の課題を発見し、一部は自律的に解決できる技能」である。(参考文献1)
この能力レベルでは、戦略やリスクマネジメント、自社の知財の保護・権利行使のための課題発見と自律的な解決が期待されていることから、単なる法条文の理解レベルではなく、本質を捉え、実際の業務で応用が効く行動が求められている。

1.2 資格受験者の状況と現在の典型的な学習法

(1)資格試験受験者が置かれている状況について

受験者の年齢構成は、20代後半から50代前半。(※第52回知的財産管理技能検定実施データより)この年代は社会人であり、平日は9時から17時までの勤務を行っている。学習に充てることができる時間は、通勤時間や始業前、お昼休憩、帰宅後や週末の時間であり、特にまとまった時間が確保できるのは週末であろう。
さらにこの年代は、付き合いや、家庭を持っていれば家事や育児を担っており自己の資格学習に充てる時間は限定的である。

(2)おもな学習法

学習法は大きく4つに大別できる。それぞれの特徴は、一般的には次のとおり整理できる。

  1. 書籍(テキスト・問題集)による独学
    最も低コストで始められ、自分のペースで学習を進められる点を特徴として挙げることができる。紙書籍への書き込みや付箋付けが可能であるが、分厚いテキストや問題集は持ち運びに適さず、外出先や隙間時間での学習には向かない。そのほか、学習に強制力がなく、モチベーションの維持が難しい。また不明点に直面した際に自力で解決する必要があるため、挫折率が高い。
  2. 資格関係のスクールや講座の受講
    特徴は、専門の講師による質の高い講義と、同じ目標を持つ仲間との交流により、高いモチベーションを維持しやすい点である。一方で、時間・場所の制約がある。物理的な校舎に通う必要があり、通学時間が負担となる。また、授業時間が固定されているため、残業や急な予定変更との相性が悪い。そのほか、一度欠席すると授業内容のキャッチアップが難しく離脱を招くことがある。また、一般に受講料は高額である。
  3. eラーニング(動画配信・PC学習)
    場所や時間を問わず、高品質な講義を繰り返し視聴できる点が特徴である。動画の倍速視聴など効率的なインプットが可能であるが、「ながら学習」の難しさがあり集中できない傾向もみられる。そのほか、安定した通信環境やタブレット・PCが必要となる。
  4. Web学習(録画配信含む)
    コロナ以降定着してきた学習形態であり、スクール形式とeラーニングの良さを併せ持つ。授業時間が固定されているが録画視聴でキャッチアップ可能であり、繰り返し視聴もできる。金額的にも抑えられ、仲間との交流もありモチベーション維持が期待できる。

1.3 問題点及び課題の抽出

(1)課題抽出にあたっての観点

1.1に示す目指すレベルに達するにあたり、現在のおもな学習法には、次に示す観点から見て問題がある。

観点:本質の理解と応用

前節で述べた通り、本資格取得にて目指すレベルは、実際の実務で応用の効く行動である。本質を法条文の文字からのみ読み解くことは難しい。特に書籍による独学では習得に時間がかかる。そのほかの学習法おいても「優れた講師」は本質を端的に解説しているが、受け手(受講生)側がそのアンテナが立っていなければ十分に受け止めることはできない。

観点:得点レベル

本資格試験の受験は、法の専門家を目指すわけではない、また得点を競う試験でもなく、必要なレベル以上の得点で十分である。限られた時間を割いて学習するにあたり、合格レベルに達することが必要であるが、それを大きく超える必要はない。

観点:自己の既得技能や日頃の業務との関連

合格にあたり、日頃の業務と関わりのない法や制度の理解も求められる。また、個人のこれまでに歩んできた経歴や得られたノウハウ・知見があるが、上述の従来の学習法では考慮されない。

観点:モチベーション

実力レベルの見える化だけでは、モチベーションが続かない。したがって日頃の努力の見える化も必要と考えられる。

観点:取得後のビジョン

資格取得をゴールとしており、さらに深く継続的に学び、かつ資格学習で得た知識を応用し、社会人としての価値を高めるビジョンが描き切れていない。

1.4 課題の整理

上で述べた従来の学習法の問題点を踏まえ、前節の課題抽出の5つの観点から、本テーマにおいて解決すべき課題を以下の5点に整理した。

(1)法条文の本質(=真の意味での法条文の理解)を目指す学習

しっかりと法条文の本質を理解できていれば、“試験問題の文面”が変わっても正解できる。毎回変わる“文面“は、法条文理解を確認するために作問の先生方が議論重ね、考え出している文面であり、つまり、様々な角度から法条文の理解を試している。すなわち、法条文理解のための複数の視点を示していると言える。複数の視点から法条文を見ることで、より本質に近づくことができる。したがって、一つの法条文に対する複数の視点をわかりやすく示すことが課題となる。

(2)「試験合格」レベルの獲得の効率化を目指す学習

知的財産管理技能検定3級,2級の受験者の多くは、法律の専門家を目指す学者や法務担当者ではない。また、試験範囲には日頃の業務とは直接関わりのない法制度(種苗法や条約等)も含まれ、これらが学習の心理的障壁となっている。試験は100点を取る必要はなく、合格ライン(80%)を超えることが求められる。したがって、「法の網羅的な理解」ではなく、「社会人としての応用力」と「合格に必要な知識」をバランスよく、かつ限られた自分の時間を使い、試験日に焦点を合わせ計画的に習得させる工夫が課題と言える。

(3)自己の現在の技能(経歴・知見)の見える化

従来の学習法は、全ての受験者が「ゼロベース」から開始することを前提とした画一的なカリキュラムである。しかし、社会人受験者は、これまでのキャリアを通じて得た実務経験や法的知識、あるいは業界固有のノウハウを既に保持している。 これらの「既有知見」を学習プロセスに組み込み、既知の領域をスキップして未知の弱点に集中するパーソナライズされた学習最適化が、多忙な社会人には不可欠であり、その実現の具体策が課題と言える。

(4)モチベーション維持のための「努力の見える化」

現在の学習環境において、自分の立ち位置を知る指標は「模試の得点」や「正答率」といった「実力レベルの見える化」に偏っている。しかし、それだけではモチベーションの維持は困難である。本テーマでは、単なる正答率だけでなく、日々の学習継続を評価する「努力の見える化」が必要であると考える。具体的には、「知財メータ」のフィードバック機構を通じ、自己のレベルを測定するとともに、試験前日に合格ラインへ到達する「ジャストインタイム」な学習計画の立案と実行の支援を課題として設定する。

(5)資格取得後の価値創出

取得した知識を実社会で運用し、社会人としての価値を高めるには、単なる法条文暗記に終始するのではなく、知財知識を日頃の業務に活用する、例えば、業務上の課題を発見し、自律的に解決する、また知財戦略の立案、リスク管理、実務リーダーとして社内に知財活用を浸透させる役割などを果たす具体的な行動が求められる。学習期間はその“仕込み”の期間であるとして、課題設定する。

課題 内容
表1 本資格合格レベルからみた主な学習法での課題設定
法条文の本質(=真の意味での法条文の理解)を目指す学習 複数の視点から法条文を見ることで、より本質に近づき実際の業務で応用が効く能力の獲得
「試験合格」レベルの獲得の効率化を目指す学習 試験日に標準を合わせた計画策定
自己の現在の技能(経歴・知見)の見える化 現有スキルレベルの見える化
モチベーション維持のための「努力の見える化」 日々の努力の見える化、Just in Timeな合格を支援する
資格取得後の価値創出 戦略やリスクマネジメント、自社の知財の保護・権利行使のための課題発見と自律的な解決のための能力の獲得
2 ハッテミルカ学習法による解決策

2.1 IT技術を駆使した電子書籍構成法

(1)“ハッテミルカ”のネーミング

知財2級の合格者に期待される能力は、知的財産管理技能検定試験要項から引用すると、「知的財産に関する戦略、法務、リスクマネジメント、調査、ブランド保護、技術保護、コンテンツ保護、デザイン保護、契約、エンフォースメント(権利行使)に関する幅広い基礎的知識を有し、業務上の課題を発見し、一部は自律的に解決できる技能」である。(参考文献1)
この能力レベルでは、戦略やリスクマネジメント、自社の知財の保護・権利行使のための課題発見と自律的な解決が期待されていることから、単なる法条文の理解レベルではなく、本質を捉え、実際の業務で応用が効く行動が求められている。前節で示した課題の解決を具体的に示す前に、ハッテミルカのネーミングについて述べる。ハッテミルカとは、法条文上に過去出題された問題番号を“貼ってみる”を語源としている。貼ってみると、同一の法条文に対し、複数の出題があり、それぞれの出題文では、法条文を理解しているかどうかを試す問いがある。全く同じ問題文は無く、それぞれの問題文を使って様々な角度から法条文の理解を試していることが分かる。 “ハッテミルカ”学習法のコンセプトは、まさにこの点に着目した、過去問を通し、法条文理解を様々な角度から深める学習法である。

(2)「法条文の本質を目指す学習」を実現するための解決案

ハッテミルカでは、重要な法条文ほど資格試験での出題率が高いことに注目した。重要な法条文とは即ち実務での理解が必要な法条文である。そのため、実務のシーンを想定し、様々な角度・視点から問題が作成されている。つまり、ある法条文の理解を確認するにあたり、様々な角度からその理解を問う問題が作成されており、よって、過去問は法条文を様々な角度から理解する助けとなっている(=「過去問は理解の味方である」)。 ハッテミルカでは、図1のように、法条文とそれに関連した問を記載する構成としており、受験者は、一つの法条文に対し複数の角度から学習を進めることができる。

図1 ハッテミルカより抜粋 著作権法第15条の法条文と過去問リンクひとつの法条文(例:著作権法第15条第1項)に、過去5回で2級及び3級併せて14回出題されている。問い方も様々な角度からなされている。

(3)「試験合格」レベルの獲得の効率化を目指す学習、自己の現在の技能(経歴・知見)の見える化

合格レベルは3級で30問のうち70%の正答、2級で40問のうち80%の正答である。すなわち、2級でいえば8問まで間違えてもよい。間違えてもよい問題、必ず正解する問題を区別し、試験日前日までに合格レベルにちょうど達するJust in Timeな計画が最も効率的と言える。
現時点の得点見込みと試験までの日程より学習計画を立てる。
ハッテミルカでは、次のように学習計画を立てることができる。

  1. 現時点でのレベルを計る
    現時点の自己レベルを次のような手順で把握できる。
    • 手順1:本書記載の知財メータを起動する
    • 手順2:<<法条文理解度から入力>>にて、自分が理解している法条文を「未実施」から「OK」とする(図2右)。理解が十分でない法条文は未実施のままとする。また、「捨てる」は学習を捨てる場合、「NG」はわかったつもりであるが、もう一度取り組むべき問題につける目印などの用途を想定している。
    • 手順3:特許法 、実用新案法、意匠法 、商標法、著作権法、不正競争防止法、パリ条約、PCT 、種苗法、弁理士法、独禁法、関税法の各法について入力する。
    • 手順4:図2左のように現時点でスキルがグラフ化される。過去5回の試験についてそれぞれ現状レベルと合格レベルの差が表示される。
    図2 現状レベルの測定の例:図の右は、商標法についての入力例、入力と同時に実力メータ(図左)に反映される
  2. 合格レベルに至る学習計画を作成する
    上記で把握した未実施項目を、試験日までの日数を勘案し、学習計画を立てる。週末にまとめてでもよいし、毎日少しずつ実施でもよい。

(4)モチベーション維持のための「努力の見える化」

実施した過去問は図3のようにステイタスを更新する。
学習の進み具合を図4のように表示させることができ、学習のモチベーション維持に役立つ。
また、NGのままとなっている法条文のみを表示させることができる(NGフィルター機能)。十分な理解とするために、もう一度過去問にあたるなどの目印にする(図5)。

図3 過去問理解度ステイタスの入力 3級を例としている。枝問がア、イ、ウと3問あり、それぞれ理解したらOK あやふやでもう一回復習しようとする場合NGとする

図4 進捗メータ表示例 実施数が青で表示

図5 復習が必要なNGの問題(フィルター機能の例)図3でステイタスをNGとした問題だけをフィルター機能で表示させることができる
3 効果

IT機能を駆使した電子書籍として構成した。法条文の本質を理解し、実社会で資格を活用できる工夫を施すことができた。また本書により、一人ひとりの知識レベルに応じた学習計画の作成や進捗の把握を効率的に行い、企業で働く社会人の状況にあった学習を効果的に進められる。
特に、過去問を使って法条文の本質を多面的に理解すれば、出題の文言が変わっても必ず正解できる。
本書を使った学習をぜひ取り入れてもらいたい。

4 今後の課題

一層の効率化のため、次のような機能や施策が今後の課題であると考える。

(1)受験者一人ひとりの知識レベルに応じた学習計画“提案”機能の具備

学習計画そのものを提案する機能を指す。本書では実力の自己分析に基づいて自分で作成するため、“わかっているつもり”などの恣意が入る。しかし、本人の恣意が入らない客観的な計画が自動で策定される機能が望ましい。

(2)学習計画のカレンダーへの自動マッピングと過去問提示機能

通勤時間など隙間時間を活用し、学習計画に基づき、本日取り組むべき問題を提示する機能が望ましい。例えば、スマーフォン画面に決まった時間に問題が表示されるようにカレンダー機能との連動などが想定される。

(3)Web学習との連携

学習計画の着実な実行とモチベーションの維持を受験者に促す。例えば、試験に向けた学習期間を約1.5カ月と想定し、その期間に3回程度のWeb学習やネット模試の機会を作る。

5 まとめ

電子書籍ハッテミルカのプラットフォームを知的財産管理技能士検定に応用した。法条文の真の理解により、従来の学習法では困難であった“3級2級連続合格”が十分効率的に可能であり、そのための学習法及び今後の課題(=方向感)を示すことができた。

6 参考文献
(リンク) ”AIに小説を書かせてみた!”

挑戦者たちの「ハッテミルカ」